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狸石

--寓話--

豊島与志雄

 

貉石

——寓言——

豐島与志雄

 

**

 戦災の焼跡の一隅に、大きな石が立っていた。海底から出たと思われる普通の青石だが、風雨に曝されて黒ずみ、小さな凹みには苔が生えていた。高さ十尺ばかり、のっぺりした丸みをなしていて、下部を地中に埋め、茶釜大の丸石で囲んであった。その石全体の恰好に、別に奇はなく、人目にはつかないが、然し見ようによっては狸とも思えた。巨大な狸が尻で坐って、上半身をもたげ、真直にすーっと伸び上ってる、そういう姿なのだ。じっと見ていると、ますます狸に似てきて、頭をもたげとぼけた風で空を仰いでおり、眼らしい凹みもあり、前足を縮めてるような突出部もあり、なお見ていると、こちらにやさしく抱きついてきそうである。

 

  戰火肆虐過後留下的一處廢墟中,一塊巨石豎立在角落。人們以為那是塊源自海底的尋常青石,而它在風雨的曝晒下,色澤已顯得黯淡,表面窄小的凹陷處也滋生出青苔。它高約十尺,外型平滑圓潤,底部沒於土中,周圍被茶壺大小的圓石所圍繞。此石整體看來平凡無奇,並不引人注目;但從某些角度看去,似能瞧見貉的輪廓,恰似一隻巨貉一屁股坐著,挺起上半身伸直後腳的模樣。定睛一看,更覺相像,彷彿一隻貉正茫然地抬頭仰望著天空。巨石不只有著看似眼部的凹陷處,也有宛若前腳蜷縮的突出處;看久了,甚至會覺得它正朝自己溫柔地擁抱過來。

 

 都心に遠く、昔は郊外とも言える土地で、その辺一帯が焼跡になっていて、人家もまだ余り建たず、薄荷の匂いのする青草が茂り、所々に芒が伸びていた。その荒地を分けた小道のほとり、石屋の名残りらしく、大小さまざまな石がころがっていて、その片隅に、巨大な狸が伸び上って空を仰いでるのである。然しその狸石に注意を向ける通行人は殆んどなく、時折その辺へ遊びに来る子供たちが、肩に登ったり、チョークでいたずら書きをするだけで、ただ放置されていた。

 

  這片遠離都心的土地,過去可說是郊外;如今這一帶僅存燒毀的廢墟,尚無多少人家搭建,只見鬱鬱青草飄散著薄荷芳香,芒草四處恣意生長。從中切開這片荒土的小徑旁,宛若是石料商鋪的陳跡,堆放著各式大小的石頭。一隻巨貉在石堆的角落,伸直後腳仰望著天空;然而,卻幾無行人對那塊貉石投以注目,只有偶爾到那一帶玩耍的孩子們會攀上它的肩部,用粉筆在上頭塗鴉,它就這樣被閒置在那裡。

 

 ところが、或る夜、淡い上弦の月が西空に傾いてる頃、その焼跡に、青白い火がどろどろと燃えて、狸石のほとりにぼーっと明るみを投げ、人の姿を浮き出さした。背の高い痩せた蓬髪の男で、狸石の肩のところに両腕でもたれかかり、腕に顔を伏せている。泥酔しているのか泣き悲しんでいるのか、どちらとも分らない。ただ異様なのは、着流しの和服らしいその裾からはみ出している片足が、血まみれになっていた。

 

  沒想到一天夜裡,淡薄的上弦月尚懸掛於西空時,那座廢墟裡燃起了青白色的火焰,火光微微照亮貉石四周,映照出一道人影。原來是一名身材高瘦、首如飛蓬的男人,他雙臂倚著貉石的肩部,埋首於雙臂中,不知是喝得酩酊大醉,抑或是正哭得撕心裂肺。但奇怪的是,由於他和服外未著褶裙,可以看見從他和服下擺露出的其中一隻腳滿是鮮血。

 

 男――ああ、ようやく辿りついた。お前は、よく待っていてくれたね。もうどっかへ行ってしまったかも知れないと、まさかそんなこともあるまいとは思いながら、びくびくしていたが、ここにいてくれてよかった。これで安心だ。何物も恐れないぞ。だが、若しかった。僕の足を見てくれ、血だらけだ。駆けつけて来たんだぜ。煉瓦やコンクリートの破片に躓くし、穴ぼこに落ちこむし、茨に引っ掻かれるし、何度ぶっ倒れたか知れない。それでも、お前がここにいてくれたんでまあよかった。おい、何とか言えよ。

 

  男人——唉,費勁千辛萬苦終於到了。你有好好在這裡等我啊,我還在想你搞不好跑去別的地方了,整天提心吊膽的,還好你還在這裡,這樣我就放心了,什麼都不用怕了。可我這一路上吃了不少苦啊,你看我的腳,都是血。我可是跑來的,路上一下被磚塊或混凝土的碎塊絆倒,一下掉入坑洞裡,一下被荊棘劃傷,不知道我到底倒下了多少次。但就算這樣,你還是在這裡等我,真是太好了。喂,你說點話啊。

 

 男――もっとも、お前がどっかへ行ってしまうこともあるまいと、僕は思ってはいたさ。ほんとは、お前を買い取って家の庭に据えたかったんだ。然し、お前も知ってる通り、僕は貧乏なんだ。お前の値段がどれほどのものか、運搬の費用にどれほどかかるものか、さっぱり見当がつかなかった。なにしろでっかい石だからな。だから僕はだいたい諦めて、金持ちの友人に買って貰おうと思ったよ。これは俺の恋人だ。君が買い取って庭に据えておいてくれ、時々見に行くからね、とそう僕は言った。だが、誰も買ってくれる者はない。もし見ず識らずの者に買われたら大変だ。僕だって、いつまでも貧乏だとは限らない。いまに金を儲けたら、君を家の庭に引き取るから、それまで待ってくれ、それまで待ってくれと、心で泣いていたよ。辛かった。切なかった。お前の肩につかまって、幾度涙を流したことか。

 

  男人——不過,我本來還以為你可能會跑去別的地方呢。其實,我一直很想把你買下來,擺在我家的院子裡。但你也知道,我很窮,你值多少錢,搬運要花多少費用,我一點頭緒也沒有,不管怎麼說,你都是塊大石頭啊。所以我幾乎已經放棄了靠自己買下你的念頭,想找有錢的朋友幫我買,我跟他們說:「這是我的愛人,你幫我買了放在你家的院子裡,我三不五時就會去看它。」但是,沒有任何人肯幫我買,要是你被我不認識的人買走就慘了。我也不一定會一輩子都這麼窮,我總是在心裡哭著對自己說:「我早晚會賺夠錢,把你買回我家的院子的,在那之前,你再等我一下,再等我一下。」但我好累,好痛苦。我到底像這樣抓著你的肩膀,流過多少次眼淚了呢?

 

 男――それから、戦争さ。僕は遠くへ行った。さんざん苦労をした。だが、お前も、空襲に堪えて、よくここにじっとしていてくれたね。見れば、美しい苔も剥げ落ちてしまってる。火をかぶったのか、黒くよごれてる。子供たちのチョークで、いたずら書きはされてる。でも、そんなことはどうでもいいんだ。無事にここに立っていてくれてること、つまりお前の存在が、それだけが、僕には大切なんだ。もしもお前がどっかへ行ってしまったら、僕はもう……

 

  男人——之後,發生了戰爭,我去了很遠的地方,過得很辛苦。但你竟然撐過了空襲,一步也沒有離開這裡。看看你,美麗的青苔都脫落了。是被火燒過嗎?你身上多了一些焦黑的污痕,還有孩子們用粉筆塗鴉的痕跡。不過,這些都沒關係,我只在乎你的存在,只要你還平安無事地立在這裡就好。要是你去了別的地方,我就……。

 

 狸石のほとりに、また青白い火がどろどろと燃えた。その明るみの中に、地中から湧き出したかのように、女の姿が現われた。眼鼻立ちはきりっとして美しいが、肉がすっかり落ちて蝋細工のように見え、縞模様も分らぬ着物をまとい、髪を乱していて、死人のような感じである。不思議なことには、男と女は顔を見合せもしなかったが、互に相手がそこにいるのを当然のことと思ってるかのようだった。男はやはり狸石の肩にもたれたままだし、女は狸石の根元にしゃがみこんでいる。

 

  貉石的四周再次燃起了青白色的火焰,火光之中,恍若從地下湧現出一個女人的身影。女人五官分明清秀,卻如蠟製工藝品般消瘦,又身著看不清花樣的衣裳,頭髮凌亂,像個死人似的。不可思議的是,男人和女人的眼神並無交會,便彷彿彼此皆認為對方的存在是理所當然般,男人依舊倚著貉石的肩部,女人則蹲在貉石的根部旁。

 

 女――分りましたわ。あなたはやっぱり、あたしよりこの石の方を愛していらっしゃるのね。

 

  女——我懂了,比起我,你果然更愛這塊石頭吧。


 ――それがどうだと言うのかね。

 

  男——那又怎麼了嗎?


 ――どうとも言いはしません。ただ、そうだと言うんです。

 

  女——沒什麼,只是說事情就是這樣而已。


 ――お前はいつもそうなんだ。口先でいくらごまかそうとなすっても、いくら言いくるめようとなすっても、あなたの本心は分っていますと、そういう断定をいつも持ち出す。女の独りよがりの勝手な断定というものは、鉄の壁のようにぎくとも動かない。それに頭をぶっつけると、こちらの頭が砕けるだけだ。だから僕が一歩後にしざると、お前は、それごらんなさいという顔をして、ますます攻勢に出てくる。あたしよりもあの女の方を愛していらっしゃるんですね、あたしに使う金は惜しくて御自分の酒に使う金は惜しくないんですね、風向きの悪い話になると黙りこんでそっぽ向いてしまいなさるんですね、痛いところを突っ突かれると怒鳴りつけて虚勢を張りなさるんですね……何とかかんとか、結局のところ、僕は一片の愛情もないエゴイストで卑怯者で我利々々亡者だということになる。男の複雑な心情がお前にはさっぱり分らないんだ。


  男人——妳總是這個樣子,「不管你嘴上如何敷衍,如何哄騙,我都明白你真正的想法。」妳總是說得這麼篤定。女人自以為是的判斷,就像是一面鐵壁,什麼都改變不了妳的想法,要是我拿頭撞上去,也只會碎了自己的腦袋瓜而已。所以,妳只要看到我往後退一步,就會一臉得意地發起更猛烈的攻勢。「比起我,你更愛那個女人吧」、「明明對我一毛不拔,買自己的酒就不心疼啊」、「情勢一對你不利,你就轉頭不說話啊」、「一被戳到痛點,你就會大聲罵人,開始虛張聲勢吧」……不管怎麼樣,在妳口中我最後都會變成一個完全不愛妳的利己主義者,卑鄙、自私自利又利慾薰心的人,妳一點都不懂男人的心思有多複雜。

 

 女――ええ、あたしにはどうせ複雑なことは分りません。あたしは単純で、そして現在に生きております。あなたは複雑で、そして未来にだけ生きていらっしゃる。今に、こうなったらこうしてあげる、こうなったらああもしてあげると、先の約束だけで、そしていつまでもその時は来ないじゃありませんか。いつもいつも約束手形ばかりで、その期日が先へ先へと延びていきますと、それも空手形にすぎなくなるじゃありませんか。だからあたしは、もう待つのに倦きました。あなたとあんなことになって、二人とも会社をやめて、あなたには僅かな収入しかないし、あたしはバーに勤めながら借金がふえるし、先の見込もないから、一緒に死にましょうと、かねての約束を持ち出しました時、あなたは何と御返事なすったか、覚えていらっしゃるでしょうね。

 

  女——是啊,我就是搞不懂複雜的東西。我很單純,而且活在當下;但你很複雜,而且只活在未來裡。你就只會承諾說之後怎麼樣了就這樣那樣的,但你實現約定的那一天永遠都不會來不是嗎?只會一直一直開承諾的支票給我,但你不斷延長它的期限的話,那不就只是張空頭支票而已嗎?所以,我已經不想再等了。我和你淪落到那種下場,兩個人一起向公司辭了職,但你現在的收入就只有那樣,我也是,在酒吧工作,錢卻越欠越多,我們的未來已經沒有任何希望了,所以我才會跟你說「我們一起去死吧」,這是我們約好的,但你還記得你是怎麼回答我的嗎?


 ――覚えてるよ。事情が打開されるまで待とうと言った。


  男人——記得啊,我讓妳等我把事情解決。

 

 女――そしてひどく怒って、殴りつけなすったわね。だからあたしも、かーっとなって、あなたのところを飛び出したけれど、それでも待ちました。

 

  女——然後你很生氣,打了我一頓,所以我也生氣地從你家跑了出來,但就算這樣我還是有等你。


 ――いや、お前は待たなかった。

 

  男——沒有,妳沒有等我。


 ――いいえ、待ちました。この狸石に聞いてごらんなさい。あなたがこの石をほんとに好きだってこと、どうかするとあたしよりも好きだってこと、よく分っていました。だから、この石のところまで逃げて来て、あなたが追っかけていらっしゃるのを待ちました。けれど、いくら待っても、あなたは後を追っていらっしゃいませんでした。最後にあたしは、一つ二つと……十の数を数えました。一回数えてもだめ、三回に延して数えてもだめ。五回まで数えました。それでもだめだったから、泣きながら立ち去りました。


  女人——不,我有,不信你可以問問看這塊貉石。我很明白,你是真的很喜歡這塊石頭,甚至搞不好比喜歡我還喜歡,所以我就逃來這塊石頭這裡等你追來。可是,不管我等了多久,你都沒有來,最後,我從一、二……數到十,數完一遍你沒來,我多數到了三遍,但你還是沒來。最後我數了五遍,即使如此,你還是沒有來,所以我就哭著離開了。

 

 男――いや、僕は追っかけて来たんだ。十を五回数えたんなら、なぜ、七回数えなかったんだ。なぜ、十回数えなかったんだ。そうしたら間に合っていた。

 

  男——不,我有追過來。妳都數五遍了,為什麼不數七遍?為什麼不數十遍?妳要是那麼做的話,我就能追上妳了。


 ――そんなら、なぜあたしは五回まで延したんでしょう。三回でうち切ってもよかった筈です。

 

  女——照你這樣說,那我為什麼還多數到了五遍呢?我數完三遍就停下來應該就好了。


 ――十回まで延せばよかったんだ。

 

  男——妳數到十遍就好了啊。


 ――三回でうち切ってもよかった筈です。

 

  女——我數完三遍就停下來應該就好了。


 ――お前が早すぎたし、僕が遅すぎたんだ。然し、この石はいつまでも待っていてくれた。まだこれから後も待っていてくれることだろう。ねえ狸公、お前は待っていてくれるね。千回でも万回でも十を数えていてくれるね。

 

  男——是妳太快放棄,而我太慢追來了。可是,這塊石頭它一直在這裡等我,之後,大概也會繼續等吧。貉公啊,你會等我的吧。即使是一千遍、一萬遍,你都會為我數到十的吧。


 ――それとも、ねえ狸さん、三回でうち切りますか。

 

  女——還是說,你會數完三遍就停下來呢?


 狸石――十を数えるなんて、そんなばかなこと、わしはしないね。



  貉石——數到十也太蠢了吧,老夫才不幹呢。

 

 驚くべきことには、狸石が呟くように口を利いて、頭を振った。男も黙り、女も黙り、そして淡い月も雲がかけて、ひっそりと暗くなった。とたんに、青白い鬼火がどろどろと燃えた。その明るみで見ると、男女二人の姿はいつしか消え失せ、狸石だけがとぼけた顔で空を仰いでいた。

 

  駭人的事情發生了,貉石竟搖著頭呢喃了幾句。男人沉默,女人失語,浮雲掩映淡月,令月色悄悄暗了幾分。突然,青白色的鬼火燃起,藉著火光一看,男女二人的身影已不知不覺消逝,獨獨留下貉石,仍茫然地仰望著天空。

 

  それから数日後、いつ誰がしたのか分らないが、大きな狸石をはじめ、その辺に転っていた石塊は、すっかり何処へか持ち運ばれてしまい、雑草は抜かれ、きれいに地均しされた。やがては人家が建てられることだろう。狸石ももう人目にふれず、忘れられてしまうことだろう。

 

  幾天後,不知何人何時所為,巨大的貉石與周遭其餘石塊全數被運至他處,連雜草都被拔淨,僅留下一塊整治過的土地。相信在不久後,便會有人在此搭建人家吧,而貉石也將消失在眾人的視野中,為俗世所遺忘。

 

心得:這篇的副標題表示這篇故事是一則寓言,但其中究竟隱含什麼寓意呢?以下分享一點自己不專業的看法。

貉(狸)在日本素有機靈、愛捉弄人的印象,並且傳說擁有化身為人及其他物品的能力。我第一個想到的就是小時候看的動畫電影《平成狸合戰》( 平成狸合戦ぽんぽこ ),裡面的貉真的有夠可愛,跟我同年代的應該大多會有印象。

言歸正傳,因此我認為故事中的貉石,八成真的是貉變的。牠化作溫柔的模樣,令男人傾心;又在恰到好處的時間點開口說話,嚇死男女兩人,之後還馬上烙跑,感覺很像是貉的作風。

至於男女二人畢竟在鬼火燃起之後現身,應是在戰火中死去的亡魂。兩人死後不知在荒野間飄蕩了多久,彼此卻仍沒有好口氣,最後還得受貉這般捉弄,不知是否是熱衷和平運動的豐島老師在以此傳達他的精神呢?

但我比較在意另一點,從男女兩人的話語間,可以發現他們對彼此與貉都抱有過度主觀、武斷的認知和期待,這般只看自己想看的地方、只接收自己認同的資訊的行為,是否需要加以警惕呢?

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