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前情提要:伊兵衛雖然心裡並不想動手,但面對朝他攻擊的一眾馬夫,仍不小心將其一一擊倒。小室青岳在一旁觀察完情況之後,出面制止事態繼續惡化。
( 為了方便閱讀,會盡量以原文、譯文交錯的形式呈現。如果該段文字前沒有空格,即是該段文字在原文中與上一段屬於同一段,沒有分開。 )
三
おたよは夜具の上に坐って、袴を着けている良人の姿を、気遣わしそうに眺めていた。
阿賴坐在床上,擔心地望著丈夫身著裙絝的身影。
まだ病後の窶れはあるが、若い躯は恢復も早いらしく、皮膚は艶やかになり、血色もよく、活き活きと光りを湛えた眼もとなど、一種の嬌めかしささえ加わったようである。
大病初癒的她,臉上雖殘留些許憔悴,但畢竟年輕,身體似乎恢復得較快,不只皮膚找回了光澤,氣色也好些了。眉目間滿溢著光彩的活力,讓她比起往常彷彿更多了分嬌豔的氣息。
「それで、その小室さまと仰しゃる方とは、どこでお知合いになりましたの」
「所以,您和那位小室大人是在哪裡結識的呢?」
「それはあれです」伊兵衛はちょっと詰ったが、「――その問屋の店でですね、ほんのちょっとしたことからなんだが、そういうわけならぜひ訪ねて来い、という話になりましてね、私もいちどは断わったんだが」
「那是。」伊兵衛一時不知該如何解釋。「他在一間批發商,告訴我『雖然只是件小差事,但你現在這般處境,之後務必要來找我』。不過,我也向他推辭過了。」
荷物持ちの稼ぎのことは、妻には固く内密であった。むろん峠の出来ごとなどは、話せない。おたよの知りたいのも、その点ではなく、これから良人が訪ねる、小室青岳という人物と、その用件がなんであるかということであった。
至於幫人提行李卻沒收到錢的事,他對妻子則是一字不提,自然,山頂上發生的那些事就更不用提了。阿賴好奇的也並非此事,而是丈夫即將要前往拜訪的那位小室青岳,究竟是何許人物,以及他所謂的差事又是什麼。
「また御仕官のお話ではないでしょうか」
「不會又是要雇您到諸侯麾下做事吧?」
「どういうことになるか」伊兵衛は咳をして、「――まだ詳しい話はしてないし、とにかく訪ねてみてのことなんだが、しかし、もしかして仕官の話でも、いちおう当ってみるつもりですよ」
「究竟會怎麼樣呢?」伊兵衛輕咳了一聲。「詳細的事情都還沒討論過,總之得先去找他再說了。不過,若他真是要雇我為諸侯做事,我姑且也打算做做看。」
おたよは良人の眼をじっと見つめた。
阿賴凝視丈夫的雙眼。
良人は稀な才能をもっている。学問は朱子、陽明、老子に及び、武芸は刀法から槍、薙刀、弓、柔術、棒、馬術、水練、しかも(学問はそれほどでないにしても)それらの武芸は無類の腕で、どの一つをとっても第一級の師範になれる……
她的丈夫才能出眾,舉世罕有。學識已修習至朱熹、王陽明與老子,武藝則自刀法至槍、薙刀、弓箭、柔術、棒術、馬術、游泳樣樣精通,且(雖然學識未達此境界)各項武藝皆難尋敵手,可做他人第一等的良師--
だがその反面、良人の性質はひとに抵抗ができない。自分のことよりひとの立場を先に考える、ひじょうに謙遜で、涙もろくて、自分の生活が楽なときは、世間の人たちに済まないと思うし、自分の苦しいときは、ひとはもっと苦しいだろうと思う……
但另一方面,他有著無法反抗他人的性格。他比起自己,總是先為他人立場著想;為人十分謙遜、容易心軟;當自己安逸度日時,會對世人感到過意不去;生活刻苦時,恐怕還會想到有人比自己更加刻苦……
こういう性分のために、代々二百五十石で仕えていた主家を浪人し、以来七年あまり、おたよと共に放浪の旅を続けている。このあいだに幾たびとなく、その才能を認められて、仕官できそうな機会があった。しかしその性質のために(その性質が邪魔をして)結局は一つも実現しなかった。
過去他侍奉於代代領俸兩百五十石的諸侯家,但他這般的性格讓他離開了那裡,成為一名浪人。至今七年有餘,他仍與阿賴繼續在江湖漂泊流浪。這期間伊兵衛的才能多次受到他人認可,獲得能為諸侯做事的機會,但因為他的性格(其性格成了阻礙),最後一件也沒成。
人間が生活してゆくには、大なり小なり他人を押しのけなくてはならない。伊兵衛にはそれができなかった。
人只要活著,或多或少都會有必須奪取他人利益或位置的時候,但伊兵衛做不到。
眼に見えなければいいけれども、少しでも、自分が誰かを押しのけ、誰かの邪魔になっている、ということがわかると、決してその席にとどまることができない。相手が気の毒になり済まなくなって、自分から身をひいてしまうのであった。
沒發現倒沒事,只要他發現自己奪取到他人的利益或位置,或造成他人麻煩,就是再微小的事情,他也決不會對該位置有所留戀。內心對他人的虧欠,會使他的身體主動讓出位置。
――良人には出世はできない、良人の性質が変らない限り、決して栄達は望めない。
おたよはこう信ずるようになった。
(丈夫是沒有辦法出人頭地的,只要他的性格不變,便絕無可能飛黃騰達。)
阿賴心中如此確信。
――けれども良人は、いつも誰かを幸福にしている、当然自分が占めるべき席、当然、自分が取ってよい物、それらをいつも他に譲ってしまう……これでよいのだ、良人には稀な能力がある、しかもその能力で、いつも誰かに幸福を分けている、これでよいのだ。
(可丈夫他,總是使他人變得幸福,總是將自己應當佔有的位置,與應當自己取得的東西讓與他人……這樣就好了,丈夫擁有出眾的能力,並總是利用他的力量將幸福分享給他人,這樣就好了。)
良人はいまでも、出世の機会を求めている、それはおたよのためである。おたよは九百五十石の準老職の家に生れ、苦労知らずに甘やかされて育った。そのおたよに貧乏させ、放浪の旅を続けさせることが、良人には耐えられないのである。
阿賴非常明白,丈夫之所以至今仍不斷尋求出人頭地的機會,都是為了自己。她生於領俸九百五十石的次席家臣家中,成長過程中未曾吃過一點苦,如掌上明珠般受盡呵護。丈夫無法忍受讓這樣的她繼續過著貧窮的流浪生活。
他人の席を奪うことはできないが、妻には幸福を与えたい。この二つのあいだに挾まって、良人は絶えず悩んでいる、それがおたよにはよくわかっていた。
雖然沒辦法奪取他人的利益或位置,但丈夫想要給予妻子幸福的生活,他被夾在這兩個想法之間,不曾停止過煩惱。
――わたくしこれで幸福です、これ以上のものは決して望んではいないのです。
たびたびこう云ったが、良人は此処でもまた、同じ失望を繰り返そうとする。それがおたよには堪らないのであった。
「我如此便足夠幸福了,絕無其他奢求。」
即使阿賴屢次這般坦言,但丈夫這次的反應仍與過去一樣失望。這件事是阿賴無法忍受的。
「私は千遍でもやりますよ」
伊兵衛は続けて云った。彼にも妻の気持はわかっていた。それが却って、彼を奮い起たせるのであった。
「就算要做一千次我也願意。」
伊兵衛繼續說道。他也明白妻子的心情,但那反而更加深了他的意志。
「ほかにちょっとわけもあるし、こんどは多少のところは眼をつぶってもいいと思っているんです、ではいって来ます」
妻のうるんだ視線かられるように、扇子を持って、彼は宿を出ていった。
「還有一點別的原因,這次我會睜一隻眼閉一隻眼,不對事事過於講究的。那我出門了。」
彷彿是要逃離妻子淚潸潸的目光般,他拿著扇子走出了驛站。
滝沢という湯治場は、街道から二十町ばかり、山へはいったところにある。街道へ出たところが吉田という宿で、箕山城下までは、峠を越えて三里ちかくあった。……伊兵衛は吉田の宿端れへ来たとき、昨日までそこに立って、客を待っていた自分の姿を思いだし、
瀧澤溫泉療養驛站距離大街約兩公里左右,入了山便看得見。走到大街後,便會抵達吉田驛站,若要從那裡到箕山城下,還得翻過一個山頭,再走上十公里的路……伊兵衛抵達吉田驛站外時,想起自己直至昨日仍站在那等候客人的身影。
「おい三沢伊兵衛、しっかりしろよ」と呟いた、「――峠の騒ぎで、おまえはもう此処では荷持ち稼ぎもできないんだぞ、小室さんを訪ねたらうまくやるんだぞ」
「喂,三澤伊兵衛,振作一點。」他自言自語說道。「因為山頂的那起騷亂,你已經不能在這裡做提行李的生意了。只要你見了小室先生,事情就會好轉的。」
すると(そんな処に立停っていたからであろう)向うから馬を曳いて来た馬子が、
「お客さま馬はどうだね」
と呼びかけた。伊兵衛はやあとふり返って、相手を見てびっくりした。それは昨日あの峠で、まずいことになった連中の一人、崖下の勘太という馬子であった。
沒想到(或許是因為他佇立在那種地方吧),有一名馬夫從對街牽著馬走了過來。
「客官需要用馬嗎?」
聽見馬夫的詢問,伊兵衛說著「唉呀」,轉過頭看見對方的樣貌之後,嚇了一跳。那人是叫做崖下的堪太的馬夫,是昨天在山頂被伊兵衛修理了一番的那群人當中的其中一人。
「やあこれは、どうも昨日は、失礼しました」
こういうと、相手はなお驚いた、伊兵衛の恰好がすっかり変っているし、侍姿になると際立った風格があらわれる。やや眼尻の下った、まるっこい顔の、てれたような表情をべつにすれば、まるで違う人間のようにしか思えなかった。
「唉呀,昨天,真的非常對不起。」
一聽此言,對方神色比伊兵衛更加驚訝。因為伊兵衛的樣貌與昨天截然不同,換上武士裝扮後,整個人展現出了異於常人的風采。若沒發現他略為下垂的眼角,以及渾圓臉蛋流露出的羞赧神色,絕對會將他認作是完全不同的人。
「これは旦那、どうもあの」馬子は眼をまるくして吃った、「――どうもその、とんでもねえこって、どうかひとつ、なにぶんとも」
そして慌てていってしまった。
「這,大人,那個。」馬夫瞪圓雙眼,結巴了起來。「那個,昨天我們對大人做了無禮的事情,還請您高抬貴手,大人不記小人過。」
然後便慌慌張張地逃走了。
(待續)