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前情提要:伊兵衛回到瀧澤驛站與妻子阿賴溝通過後,決定前往拜訪小室青岳。途經吉田驛站時,被一名馬夫搭話,彼此發現昨日在山頂上打過照面之後,那人便慌忙地逃走了。
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四
小室青岳は槍術家であった。
箕山城下の呉服町に大きな道場をもち、松平家の侍たちに教授している。扶持も貰っているらしく、藩主が在国のときには、城へも手直しにあがる、ということであった。
小室青岳是一名槍術家,
他在箕山城下的吳服鎮坐擁一間偌大的道場,並在那裡教導松平家的武士。據說他似乎還領有俸祿,會在藩主居於藩內時,直接進城指點藩主槍術。
対馬守成正という藩主はたいそう武芸に熱心で、城下にはほかに念流の刀法を教える、津村九郎兵衛という者の道場があるし、柔術家や弓道などで、家臣に召抱えられている者もあった。
因為藩主對馬守成正十分熱衷武藝,其城下另有津村九郎兵衛開道場傳授念流刀法,他還招攬柔術家與弓道家等能士作為家臣。
小室は相当に名を知られているとみえ、他の藩から教えを乞いに来る者も多く、現在ではそういう門人が八人いた。
而小室的名號似乎早已名聞遐邇,有許多其他藩國的人遠道而來乞求得到他的指導,目前已有八人經此成為其門下的弟子。
青岳は伊兵衛を槍術の達者とみたらしい。伊兵衛がゆくと、まず門人の四五人と立合せたが、予想よりはるかに腕が立つ、いや、うっかりすると自分より上をつかうかもしれない、ということがわかって、すっかり惚れこんだようであった。
青岳似乎將伊兵衛視為槍術高手,在伊兵衛抵達道場後,便讓他與四、五名弟子切磋。而伊兵衛所展現的實力遠超其想像,甚至,只要自己稍有失神,恐怕也會敗在伊兵衛的手下。認知到伊兵衛的實力後,青岳對他極為欣賞。
「これだけの腕があって、あのような稼ぎをなさるには、なにか仔細があることでしょう、しかし私にはそんなことはどうでもよい」青岳はこう云った、「――もしよろしかったら、と申すよりぜひ、この道場で稽古をつけて頂きたいのだが」
「你明明擁有這般身手,卻屈就於做那樣的生意,想必是有什麼隱情吧?但我並不在意那種事情。」青岳如此說道。「若你願意的話,說得更明白一點,我想請你務必在這間道場授課。」
「はあ、至って不調法ですが、もし私でお役に立ちますなら、どうか」
「好的,雖然我學藝未精,但若能幫上您一點忙的話,請務必讓我效勞。」
彼が承知すると、青岳は喜んで、月々の謝礼は金一枚でどうかと云った。思いがけない高額で、伊兵衛はわれ知らずほくほくしたが、そのあとがちょっと当惑した。
得到允諾後,青岳十分雀躍,提議想以每月一枚金幣作為謝禮。聽聞這超乎意料的巨額後,伊兵衛不禁喜上眉梢,卻又有些不知如何是好。
「昨日聞くと、病身の母御がおられるというが、滝沢はなにかと不便でもあろうし、当方でもなるべく道場に住込んで頂きたいので、こちらへお伴れしてはと思うのだが」
「昨天聽你說家中有生病的母親需要照顧,住在瀧澤會有些不方便吧?我這邊也希望你能盡量住在道場裡,不知你帶令堂一起搬過來這裡如何?」
「はあそれは、そうしたいですが」
「幸いこの地内に空家がひと棟あります、よかったらそこを使って下すって結構です」
「それは有難いですが、その」
「唉呀,那個,我也很想這麼做,不過。」
「剛好道場這邊還有一棟空屋,你不介意的話,可在那裡住下。」
「雖然非常感謝您,那個。」
青岳は峠の騒ぎのときも、母親がおられると云った。なにかで感ちがいをしたらしい、だが伊兵衛には訂正ができなかった。自分が病母を抱えているものと信じて、青岳が親切にして呉れるのかもしれない。暫くはこのままにしておくほうが無難だ、と思ったからである。
青岳在山頂那起騷亂時,也說了伊兵衛有母親需要照顧,似乎是有哪裡誤會了。但伊兵衛卻無法提出指正,因為青岳或許是相信自己需要照顧生病的母親,才如此親切地對待自己,這讓伊兵衛覺得暫時不解開這個誤會也沒有關係。
「実は医者のすすめで、もう少し湯治を続けさせたいと思います、もうひと月もすればと思うのですが」
「其實因為有醫生建議,我想讓她再做一個月的溫泉療養,繼續調養身體。」
必要なら自分が住込んで、五日か七日にいちどみまいに帰ってもよい。こう答えると、青岳もしいては云わず、では部屋の用意をしておくから、明日からでも来て呉れるように、ということで話はきまった。
伊兵衛表示如有必要的話,可以自己住進來,每隔五天或七天回去探望一次就好。聞此答覆,青岳也不再勉強,只說明稍後會準備好房間,希望伊兵衛明天便可前來,事情就這麼定了。
それから稽古槍を選び、稽古着の尺を計ったりし、現今の契約金に似た、支度金の包を貰って、伊兵衛は勇気りんりんと滝沢へ帰った。
之後,伊兵衛選完練習槍、量好練習服的尺寸,收下裝有類似今日契約金的預備金的包袱後,便無所畏懼地踏上往瀧澤的歸途。
「それはおめでとうございました」
「那真是恭喜您。」
おたよは嬉しそうに祝いを述べた。嬉しそうにというのは、そうよそおったという意味である。彼女は、これで無事におさまる、とは信じていない。必ずなにか故障が起こる、きっとまた此処を出てゆくようなことになる。そう考えていたからであった。
阿賴看似高興地祝賀。說她「看似高興」是因為,她是假裝的。她並不相信生活能就這樣安定下來,之後一定會遇上某種阻礙,一定又會演變成要離開這裡的局面。她心裡是這麼想的。
もちろん、そんな考えは表には出さなかった。かたちだけでも祝いたいと云い、自分が起きて、ささやかながら、祝いの膳拵えをした。
當然,她沒有讓這份心思顯露出來。即使只是做做樣子,她也表示想慶祝一番,便自己起身去準備並不豐盛的飯菜。
「こんどはね、うまいことを思いつきましてね」久しぶりの酒で、たちまちいいきげんになった伊兵衛は、ぜんぶの筋がばらばらになったような顔で、にこにこと笑いながら云った、「これまでどうして、そこに気がつかなかったか、と思うんだが、ひと口に云うと石中の火を出さないんですよ、火を押えるんです」
「我這次啊,得出了一個心法。」久違嘗到美酒,讓伊兵衛的心情立刻變得很好,他一邊笑一邊說著,笑到整張臉的肌肉因為紋路分化成許多塊。「之前為什麼都沒有注意到這個呢?用一句話來說的話,就是不要讓石頭中的火燃燒起來,要把火抑制住。」
これにはちょっと説明がいる。伊兵衛は少年時代に、宗観寺の玄和という禅僧から、心身両面の薫陶を受けた。そのなかで、
――石中に火あり、打たずんば出です。
という偈のような言葉があった。
這裡需要稍作解釋。伊兵衛在年少時期曾接受過一名宗觀寺禪宗和尚在身心兩方面的薰陶,那人名為玄和。
「石中有火,不打不出。」
他曾告訴伊兵衛這麼一句似乎是偈語的話。
石の中に火がある、打たなければ出ない、どう打つか、いかに打って火を発せしめるか。そういう意味であって、伊兵衛の武芸の真髄がそこにあった。つまり「打って火を発する一点」が、彼の技の要だったのである。
伊兵衛的武藝精髓正在於此,意思是:「石中有火,不經敲打火不出;而要怎麼敲呢?該如何敲才能使火燃起呢?」總而言之,他的技術要領,正在於「敲打使火燃起的那一點」。
「これまでは火を発する一点、ということで試合をしました、だから勝負がはっきりし過ぎたんですよ」彼は眼尻を下げて云う、「――こんどは押えるんです、発しようとする火をこうぐっと押え込むんです、相手の中へね、わかるでしょう」
「之前跟別人較量時,我都是瞄準起火的那一點,所以勝負才會這麼明顯。」他垂下眼角說道。「這次我要抑制住。把即將燃起的火像這樣用力地壓進去,壓進對手體內,妳明白吧?」
「わかりませんけれど」おたよは微笑し、頷いた、「――でもわかるように思えますわ」
「我不明白。」阿賴露出微笑,點了點頭。「不過又覺得自己好像明白呢。」
「これは進歩です、たいした進歩なんですよ、ええ、莫大といっていいくらいです」彼は上々のきげんで、まっ赤に酔った顔を絶えずにこにこさせながら、これからの稽古についても、各種の抱負を語り続けた、
「這表示我進步了,進步很多喔。嗯,可以說是莫大的進步。」他心情絕佳,醉得通紅的臉不停笑著,侃侃而談日後在道場想如何授課,以及各種想施展的抱負。
「もうこれで大丈夫です、と云ってもいいと思うんだが、こういう発明もしたし、小室さんは良い人だし、こんどこそ」
「感覺這次可說是萬事大吉了,不但想出了這個心法,小室先生人也很好,這次一定沒問題。」
「いいえもう仰しゃいますな」おたよは笑いながら遮った、「――此処でおちつくにせよ、また旅へ出るにせよ、わたくしの仕合せには少しも変りはございません、どうぞあなたのお心の済むように、決してむりな辛抱をなさらないように、それだけをお願い申しますわ」
「好了,您不要再說了。」阿賴笑著打斷了他的話。「不管是要定居於此,抑或是要再次踏上旅途,我的幸福都不會減少一分一毫。我只希望您的心裡能夠踏實,絕對不要勉強自己。」
伊兵衛は悲しげに頬笑み、そして黙って頭を下げた。
伊兵衛嘴角的微笑中含有一絲哀傷,他靜靜地低下了頭。
道場に住込むということも、おたよは承知した。七日にいちど帰る条件も必要がない、変ったことがあれば知らせるから、休日にでも戻って呉れれば充分である。こういうことで、その翌日、身のまわりの物を持って、彼は箕山へと立っていった。
住進道場的事,阿賴也答應了。她甚至說不需要七天回來一次的條件,若有異狀會隨時告知伊兵衛,因此只要等到道場的休息日再回來便足夠了。就這樣,隔天他便帶著隨身物品,向箕山而去。
(待續)